Sonny Stitt, Moonlight In Vermont (1977)


1 West 46th Street
2 Who Can I Turn To?
3 Moonlight In Vermont
4 Flight Cap Blues
5 It Might As Well Be Spring
6 Constellation
7 Blues For PCM

Alto Saxophone, Tenor Saxophone – Sonny Stitt
Piano – Barry Harris/Walter Davis Jr. (4)
Bass – Reggie Workman
Drums – Tony Williams

 日本コロムビアの企画によるレコード。最近、あらためてスティットをいろいろと聞いていて、70年代には Mr. Bojangles というクロスオーバーっぽいものもやらされていたりして面白かったりするのだけれど、これはドラムがトニーであることを除けばビバップ時代の作品と言っても分からないぐらいのストレート・アヘッドな一品。一聴してすぐに分かる高速フィルとタイトなリズムのトニーのドラムに、これまた70年代っぽい粘りのあるレジー・ワークマンのベースというバックなのに、スティットのプレイはすこしも物怖じすることのない堂々たるビバップ。ジャズの神様が宿っているかのような、強烈なスイング感と、超絶技巧の指使いとブレスのダイナミックさ。正直、スティットの作品の中でも飛び抜けて素晴らしい録音だと思う。
 このごろよく思うことなのだが、ジャズはとにかく良いリスナーに恵まれていないジャンルだと思う。ネットなんかで「ジャズを演奏してみました」なんていう動画があると、ほとんどが4ビートをバックに演奏しているだけでまったくスイングしていないしフレーズもぜんぜんジャズじゃないことが多い。素人ならまだしも、吹奏楽出身やクラシック系のミュージシャンなんかでも堂々とジャズでもなんでもない演奏を「ジャズです」と言い切ってプレイしていたりする。こういう人たちはもともとジャズに興味ないだろうからまぁいいんだけど、「ジャズファン」や「アマチュアプレイヤー」も、パッと聞いて分かるピッチの良さやアップテンポでの技巧なんかに囚われすぎではないだろうか。現代最高のサックス奏者であるクリス・ポッターだって、管楽器から多くを学んだと公言しているギタリストのパット・メセニーだって、その凄さは一つ一つの音の強弱やイントネーションの繊細なコントロールやフレーズをきちんと展開させていくような構成力にある。そいういう部分に注意していくと、なぜ彼らがスティットをはじめとしたバップ時代のプレイヤーをあそこまでリスペクトしているのかもよく分かるだろう――というか、それはこのアルバムを聴けば分かる笑 
 スティットのプレイは本当に素晴らしい。このアルバムに限らず、いつでも。特にリズム感とブレスのコントロールが凄すぎる。それと、ブルース的なフィーリングはパーカーよりもスティットのほうが表現が巧みなんじゃないかと、最近は思っている。スティットのブルースはどれを聴いても面白くて、似たようなフレーズはあっても曲想が似ていることはほとんどない。ということは、スティットは(バッパーの多くがそうだと誤解されているように)ただ自由自在にアドリブできるからすごいのではなくて、実に歌心のある人なのだということだ。
 All Musicのレビュアーは、このアルバム に星3つ(5が最大)をつけて、次のように評している。
 スティットは、このカルテットでのセッション(日本からの輸入盤)でアルトとテナーを吹き分けながら実に調子良くプレイしている。(中略)レパートリーは実に標準的であり(バップのスタンダード、ブルース、それにバラード)、目新しいことは何も起こらないが、ストレート・アヘッドなジャズのファンや、特にスティットのファンならこの平均点よりは上の作品に満足するだろう。(後略)
おそらく何千枚と聞いて、それにいちいち1〜5の点数をつけなければならない。1や2なんてことはめったにないだろうから、それは結局、3〜5のせまい枠で、とんでもなく多様なレコードを平均化しなければならないことを意味する。上のレビューには、そうしたことのくだらなさよく示されている。おそらくこの評者は、このアルバムをさらっと聞き流して、「平凡なストレート・アヘッドジャズだな」「まぁさすがにスティットだから演奏のレベルは高いけど」「3でいいや」と思ったのだろう。実につまらない音楽の聞き方だ。「ビバップなんてどれもだいたい同じ」という耳の貧しさが透けて見える。僕は自分がプレイヤーでもあるので、この一枚のアルバムから10年練習しても追いつけないほどのアイデアを感じる。「よくあるビバップ」なんていうカテゴリーにはとうてい収まらない、スティットのほとばしる才気と、それを受けて自分の個性をがっつりぶつけているトニーのドラムが聴こえる。このアルバム、本当におすすめです。

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