Jazzに欠かせないもの

 ジャズがジャズであることを定義するものは何か――というと答えは無数にあるのだろうし、そもそも「あらゆるジャズに当てはまる共通の要素」というものは存在しないのだろう。「いや、即興演奏でないジャズなどない」と言おうとしても、ギル・エヴァンスみたいにガチガチに構成の決まったジャズもあれば、もはやルールすら存在しない完全フリーな音楽もあり、それでもなぜかフリー・「ジャズ」と呼ばれていたりする。
 「ジャズは4ビート」なんていうのは、ボサノヴァからラテン、ロックやファンク寄りのジャズまである以上もちろん絶対的基準にはなりえないのだが、少なくとも「ジャズは4ビートに始まり、4ビートに終わる」みたいなカッコいいことを言うのは許される気がする。そんな「4ビート至上主義」を刺激する演奏は沢山ある。エヴァンスの Waltz For Debby なんかその典型だろう。あれはワルツの曲なんだからワルツで演奏しなければ意味がないように思わせておいて、4ビートに入るときのカッコよさと入ってからのノリの良さが最高である。
 そう、これはいわゆる「ギャップ萌え」の一種なのだ。エヴァンスみたいな端正なルックスの白人がワルツなどというクラシカルでしかもお上品で可愛いメロディで始めてから、ゴリゴリの真っ黒なフォービートに流れていくときの下品さが良いのだ。そして、同じピアノトリオで、同じようなギャップ萌えの名演がある。それがオスピーの You Look Good to Meだ。あの超名盤 We Get Requests に入っている超有名曲であり、古典派の小品みたいな瀟洒なメロディからレイ・ブラウンのぶっっといベースが入ってくる瞬間が素晴らしい。なんというか、いろんな意味でとても下品で、とても良い。オスピーはそれでもジェントルな演奏をキープしているが、後半でドラムと一緒に一気に弾ける。
 この曲を聞いていると、なぜジャズが好きなのか、なぜジャズはそんなに素晴らしいのかの答えを体で教えられる気がする。もちろんその答えとは「4ビートが素晴らしいから」である。なぜクラシックやロックでは満足できないのか――それは4ビートでしか感じられない体になってしまっているからだ。
 ところで、エヴァンスの『ワルツフォーデビー』とオスピー『リクエスト』というのは、「ジャズ初心者に薦めるべき名盤」のトップ2ではないだろうか。おそらく個人的な嗜好を抜きにして客観的にどれを薦めるべきかで決めるなら、100人のジャズ通がいたら100人ともこの二枚のどちらかを選ぶと思う。そのぐらい普遍的な名盤である。そしてその理由は、上述の「ギャップ萌え」によって人々を「4ビートの世界」に見事に誘ってくれるからではないだろうか(しかもオスピー盤は一曲目でボサノヴァの良さまでみっちり教えてくれる)。




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