キューバ

 気づけば前回の投稿からだいぶ間が空いてしまってましたね。学期も終わっていろいろと一段落したので好きな本を読んだりしていたら、あっという間に時間が経ってしまったようです。
 実は、先日の日曜から木曜にかけて、4泊5日でキューバに行ってきました。トランプ政権になってから一般の観光目的の渡航は禁じられているのですが、所詮は名目上のこと。適当に紙っ切れに「Educational puropose」のとこにチェックしてサインをするだけで、なんのことはない、普通にニューヨークのJFKから直通でハバナに行けました。渡航費はビザ代50ドル(アメリカ価格。カナダやメキシコ経由なら25ドル)と強制加入の保険を含めて360ドルぐらい、フライト時間は3時間。宿泊したカーサは一泊2700円ぐらい。食事は安く済ませれば5、6ドルですが、ロブスターのプレートにモヒートをつけても13ドル。エスプレッソはだいたい1.5ドル。ドルと言っても、正確にはキューバの観光用通貨CUCですが、これは基本的に1CUC=1米ドル。でも両替で自動的に10%とられちゃうので、日本円やユーロがあると良かった。

 キューバ、めちゃくちゃいいところですね。いままで行った国の中で一番好きかもしれない。タバコもマリファナもそれほど良いものだとは思えませんでしたが、葉巻には一発でやられました。シガーバーで葉巻をふかしながら、美味いラムをストレートで。締めはエスプレッソ。窓越しにミュージシャンの演奏が聞こえてくる。こんな感じで毎日ダラダラできたら本当に最高だなーと思いました。今回は超短期間だったので、歴史的な街トリニダや南部のサンディアゴ・デ・クーバには行けかったのがとても残念です。
 キューバは一応、共産主義の国ということになっていますが、そのへんは結構適当で、国民の多くは普通に労働して稼いだお金で生活していますし、ソ連崩壊後の90年代に民営化が進んだのと、最近ではカストロの死後に「国民の携帯所持」が許可されたりと、様々な面で「普通の国」になりつつあります。共産主義への態度については、その歴史的経緯(革命後、アメリカに対抗するためにソ連に接近した)を考えると納得でしょう。そんなわけで、アメリカがいまだにキューバを敵対視しているのは本当に滑稽ですね。キューバは貧しいので、建物は半壊、通りは穴ぼこだらけと、その町並みは『ニューヨーク1997』や『北斗の拳』みたいな部分もあるのですが(と同時にスペイン時代の優雅な建築が残っているところも魅力的)、その見た目に反して治安はとても良い。夜中に裏道を歩いていても普通にたくさんの人がのんびりとたむろしていて、襲われる気配など微塵もないなんびりとした風情。歯止めの効かない恐怖で国民が互いに疑心暗鬼になり、銃を持ち歩き、強盗やレイプ魔が跋扈するアメリカ君は、一体キューバの何を恐れているんでしょうかねー。帰国する際に、例のごとく入管で意味のない質問をされましたが、「いやいや、外から来た人より、内側の心配したら?」と毎度のことながら意地悪く思ってしまいます。
 
 ところで、キューバは一応ネットもWifiもありますけど、ちょっと田舎に行くと大自然が広がっていて、そこでタバコ栽培や放牧をしているマカロニ・ウェスタンそのままの農夫がいて、文明から離れるにはもってこいの場所ですね。ホテルなんかにはブランド品もあるし、国民のほとんどはスマホを持っていて、音楽プレイヤーや液晶テレビもあります。ですが、深夜までやっているコンビニもなければ、ガソリンスタンドを除けばチェーン店みたいなのもないし、日本やアメリカ、ヨーロッパからの旅行者にとっては十分に「物がない」。観光大国のわりに、「ここで写真をとりましょう!」みたいなスポットもあまりないので、ヨーロッパを旅行している時のような「どこに行っても観光客がうじゃうじゃ」なストレスも感じない。人混みは少ないけど、寂しくもない。消費主義から離れることの快適さを存分に味わうことができます。まぁ、日本のど田舎で田舎暮らしをする感覚に近いと思います(実際、人々の服装や植物、山の稜線は違えど、キューバの田舎はどこか日本の田舎を思い起こさせるところがある)。
 ではキューバには何があるのか?そうですね、ゆっくり葉巻をふかしながら、コーヒーを飲む時間があります笑 もちろん、これは外から来た観光客にとっての 「美化されたキューバ」ですよ。実際には、キューバはこれから変わっていくだろうし、いま旅行者が観ている「古き良き時間のある生活」みたいなのも、それ自体、貧困に悩む必要のない優遇された立場が許す幻想でしょう。その意味では、キューバはノスタルジーの産物、常に既に失われた場所にすぎない。しかし、キューバがすごいのは、カストロやゲバラといった若者たちが見た夢が、それが背後にどんな困難な現実を隠しているにせよ、すくなくとも現実に存在する国家として現出してしまった、という事実ではないでしょうか。かつてキューバはアメリカの裏庭である、と言われましたが、嘘で塗り固めた夢を騙って世界中から搾取を続けるアメリカに対して、巨象に対する蜂のごとく、キューバは一刺ししてやったわけです。
 かつてフロリダのキーウェストに行った時、対岸にははっきりとキューバの緑の大地が見えました。地図を確認すれば、キューバ、フロリダ、ハイチ、ドミニカ、それらは互いに目と鼻の距離にありながら、話す言語も、政治も、経済も、歴史も、すべてが全く異なっている。このグロテスクな矛盾と、そして「共産主義国家」というアナクロニズムを生きアメリカに目の敵にされるキューバの「普通さ」、そういったことが帰ってきたいまも頭の中をぐるぐると巡っています。

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