平山秀幸『必死剣 鳥刺し』

 前にも言ったような気がしますが、もともと映画を見るたびに「鑑賞メーター」というアプリで短い感想をメモしていたんですが、ある時からアプリが使いづらくなったetc.の理由でいろいろと自由に書けるこのブログに移行しました――のですが、わりと見たままほっておいている映画も多く、感想がぜんぜん追いついていなかったりします。
 というわけで、直近で見た三本ほどの映画なんですが、わざわざエントリーを分けるとめんどくさいので、ここで一気に感想を書いてしまいたいと思います。
 ・・・と、3日ぐらい前に書いて、以下の感想を書いたところでやはり長くなってしまったので放置してました。というわけで、続きはやはり稿を改めて書くということで、このエントリーでは一本目に見た時代劇映画についての感想を。。。

 ご存知藤沢周平の「隠し剣」シリーズの一本。これの前に『鬼の爪』と『武士の一分』が映画化されていたのですが、どちらも監督が僕の大嫌いな山田洋次。てっきり本作『必死剣』も山田洋次が監督しているものとばっかり思っていて、完全にスルーしていました。Youtubeでたまたま後半の剣戟シーンが上がっていたので見ていたところ・・・「んん?山田洋次がこんなにツボを押さえた演出ができたなんて!これは傑作かもしれんぞ」などと思わされ、確認してみたらそもそも監督が違ったという笑。いやー、非常に嬉しい誤算ですね。なんで監督変わったんですかね?世間の人もようやく山田洋次のゴミ糞っぷりに気づいてくれたのだろうか。
 と、それはそうと、肝心の映画ですが、非常に良かったです。まぁ、冗長と言われれば冗長ですし、原作が原作なだけに「義理の姪と愛し合っちゃう」みたいなのがいかにも団塊世代のオヤジの考えそうなロマンスで「キモいな」とか思っちゃうところもあるんですけど。ただ、後者については、この映画はむしろそこに批評性があるというか、そもそも豊川悦司演じる武士が冒頭で刃傷におよぶの自体が「民草を想っての正義の行為」であるかのように見えて、実は「最愛の奥さんが死んで自暴自棄になったけど、自殺するわけにもいかないので死んでもいいやつを切って自分も死罪になっちゃおう」という、ヒロイズムとはかけ離れた泥臭い人間的な行為であることが判明するわけです。で、なぜか生き延びさせられてしまい、いやいや生きているのに、姪が自分のこと好きだと分かると「セックスした日からがぜん生きる希望が湧いてくる」→老中に騙されて殺されそうになると「狂気の生命力を発揮してゾンビなみのしぶとさで醜く生き残ろうとする」という展開。要するにこの映画、『たそがれ清兵衛』の皮をかぶった『仁義の墓場』あるいは『ワイルド・バンチ』なんですよ。画面がもうすさまじいレベルの高さで時代劇の様式美を完成させているだけに、「落ち武者の霊」みたいな姿で戦う豊川悦司の「醜さ」が余計に際立つ。というわけで、義理の姪とガッツリやってしまうような「キモさ」も計算の内だと思うんですよね。映画は決して豊川悦司を「清貧で高潔な武士」などとして描いてはいないんだから。最後の一撃、まさに「必死剣」が炸裂するところも、「カッコいい」というより普通に「ぞっとする」んですよ。人間性を剥き出しにした男の醜さを描くホラーになっている。で、ラストシーンですが、何も知らずに豊川悦司を待ち受ける義理の姪の腕には、まだ幼い子供が抱かれている・・・というわけで、アッチの刀のほうも「一撃必中」だったというね。これは笑いました。
 あと、吉川晃司がめちゃくちゃ良い演技してましたね。彼はもう日本時代劇界の最後の至宝ですよ、といったら言い過ぎかね?

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