首藤瓜於『脳男』(2000)

 大森望・豊崎由美の『文学賞メッタ斬り!』でやたらと高く評価されていたので読んでみた。思想的なウンチクや爆弾処理の詳細な記述などで水増ししてあるけれど、筋としては2時間サスペンスドラマにきっちり収まるようなコンパクトな話。応募した江戸川乱歩賞 は枚数が少ないことで有名らしいので、入賞するために計算しつくされた分量なのだろう。
 非常に手堅く、そつなくできた物語。謎の男・鈴木の過去に迫る部分が一番おもしろい。小説としてやっていくよりも、アニメや漫画原作をやらせたほうが光るタイプの作風じゃないかなと思った。
 たとえば、ネタバレですが、鈴木の正体は成田良悟『バッカーノ!』のクレアと似ている気がした。もちろん、鈴木は感情がないし悪い人間でもないけれど、デッドプールとかも含め、こういう超人間がアンチヒーロー的に活躍するというのは、ファンタジーの世界では結構よくあるのではないか。もっとも、作者の首藤さんが意識していたとすれば『羊たちの沈黙』じゃないかなと思うけど。
 ラノベにして何冊もシリーズ化したらめちゃくちゃ売れたかもしれないので、きっちりしたジャンル小説の書き手にとっては厳しい時代ですね。


コメント

人気の投稿